新入社員の3割以上が「3年以内に離職」
厚生労働省の調査[1]では、大卒新入社員の入社3年以内の離職率は「32.3%」となっており、非常に高い水準にあることが分かります。
注
[1]: 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します」
スタートアップ期は、慣れない言葉や慣習などに戸惑い、会社になじみきれていない時期です。その中で若手社員は、組織や仕事における自分の「役割」や「可能性」を見いだそうともがいています。
第1回でお伝えした「2つの人格」の観点でいうなら、入社までの意思決定は「個人人格」が主導していますが、入社した途端に「組織人格」が求められるようになります。未熟な若手社員は、組織人格としての「役割演技力」が足りないために、日々もがき苦しんでいるのです。
そのためこの時期は、入社前の期待と入社後の現実のギャップから、「思っていたのと違う……」「こんなはずではなかった……」と離職に至る人が少なくありません。
彼らの離職を防ぎ、定着を図るためには、スタートアップ期の若手社員が陥りやすい「3つの症例」を理解することが重要です。
スタートアップ期の若手社員が陥りがちな3つの症例
3つの症例とは、「Meaning不足」「Value不足」「Power不足」です。次に、それぞれ解説します。
症例①Meaning不足
自分の仕事に「意味(Meaning)」を感じられず、やる気を失っている状態です。心の中では、「やりたいことと違った……」という声がこだましています。
内定を勝ち取り、期待を胸に入社したものの、実際に働いてみると「思っていたほど仕事が面白くない」と感じる若手社員は少なくありません。こうした状態が続くと、職場や仕事から逃れたいと考えるようになります。
Meaning不足に陥っている若手社員は、仕事内容にミスマッチを感じているだけでなく、上司や同僚との人間関係がうまくいっていないケースも多々あります。個人人格を前面に出し、気の合う仲間とだけ付き合っていればよかった学生時代と違い、社会では組織人格としての役割演技力を求められるようになります。このシフトチェンジがうまくできず、個人人格と相入れない振る舞いを求められることにストレスを感じている若手社員は少なくないはずです。
このような状態の若手社員は、「異動希望」という形でアラートを発することがあります。人事としては、「あと1年くらいがんばれば、仕事が楽しくなるよ」と言いたいところですが、「タイパ重視」の傾向があるZ世代は、短い時間でいかに大きな成果や満足を得られるかを重視する傾向があり、働くことも短い時間軸で捉えています。「1年も今の状態が続くなら他の会社に行ったほうがよい」と転職を決めても不思議ではありません。
症例②Value不足
「仕事の評価(Value)」に対する納得感がないために、やる気を失っている状態です。心の中では、「どうしてこの評価なのか……」という不満が渦巻いています。
就職活動で内定をもらうと、内定先企業の先輩社員からあの手この手で入社を促されます。「君なら絶対に活躍できるよ」といった声をかけられることも多いでしょう。こうして自信満々で入社した人ほど、「思っていたほど評価されない」という現実に戸惑います。同期が自分より早く昇格したり、表彰されたりすることもあるでしょう。他のメンバーが周囲から褒められたり認められたりしているのを目の当たりにすることで、自分は相対的に認められていないと感じるようになります。
人は周囲からの承認を得たがる生き物です。特に、Z世代はこの傾向が顕著であり、仕事でも「認めてほしい」「評価してほしい」という強い欲求を持っています。逆にいえば、認められないと(評価されないと)、不平不満ばかりがたまっていくのです。
Value不足に陥っている若手社員は、「評価への不満」という形でアラートを発します。上司や人事に、「自分の働きを見てくれていない」「正しく評価してもらえていない」といった不満をぶつけることもあるでしょう。会社としては正当に評価しているつもりでも、本人は自己認知と他者認知のギャップを受け入れられません。このような状態が続くと、「もっと自分を評価してくれる会社があるはずだ」と考え、転職という決断に至ります。
症例③Power不足
「力量(Power)」が追いついていないために、やる気を失っている状態です。心の中には、「ついていけない……」という不安が募っています。
多くの若手社員は、学生時代に多かれ少なかれ自分なりの成功体験を積み重ねているものです。しかし、社会人になって仕事の難しさや自分の至らなさに直面すると、学生時代の自信は打ち砕かれ、「この会社でやっていけるのだろうか……」と思い悩むようになります。特に、こうした不安に陥りやすいのが、新しい仕事を任されたときです。初めての仕事で失敗するのは無理のないことですが、上司から失敗を責められると、ますます自信を失います。
Power不足に陥っている若手社員は、「仕事の拒否」という形でアラートを発することがあります。「私にはこの仕事は無理です」と、仕事を放棄したり、選り好みしたりするようになります。会社組織である以上、トップダウンで仕事が割り振られるのは、ある意味で当然のことです。しかし、「荷が重い」「できそうにない」と感じる仕事を割り振られ続けていると、「虐げられている」と感じるようになり、嫌気が差して退職してしまいます。